15時17分、パリ行きを観て

劇場は満員だった。すでに公開後一週間以上たってのこの入りにまず驚いた。飽きるほど長い予告編上映ののち始まった本編は、回想も挟みつつ、実際に起きたことを絶妙なバランスで描写する。そう、描写と書いたが、現実はひとつなのに、そこにはクリント・イーストウッド監督の視点と取捨選択が加わり、不思議なわくわく感とともに、最後のテロリストとの対峙へとなだれ込んで行くのだ。


一歩間違えば、登場した乗客全ての命を失ったかもしれない恐怖、負傷者のリアルな流血、自分がその場にいたらと思うと卒倒しそうな状況、そして、メッセージが伝わるのに。終了後、わたしが感じたのは幸福感に近いカタルシスだった。ヒーローたちの誕生の軌跡、サクセスストーリーのハッピーエンドだからではない。

この映画を観たという意味、それはまさに唯一無二の体験を味わったことへの感謝だといえる。娯楽としての映画に落とし込まれることで、現実は追体験され、多くの示唆を得た。それは今まで何度もしてきた祈りが通じたのか、ある障害をリカバリーした人間の尊さか、あのスタンド・バイ・ミーにも似た友情の証か、知りたくなったらぜひ劇場に行ってほしい。


ひとつ言えることは、あのパリ行きの列車自体、ひとつの劇場のメタファーなのではないか。自分の人生は、誰かから見たらまたひとつのドラマなのかもしれない。そう、これはバーチャルライフ(仮想人生)映画なのである。






Sky in every mind

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