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脇目もふらず車は高速を走る。運転する彼女の薬指に指輪がないのをぼんやりと見つめる。
車はトンネルに入る。と同時にラジオも途切れる。オレンジ色の光が彼女のサングラスに映る。トンネルは出口が見えない位長い。
「CDでもかけようか?」
「やめて」
彼女はイライラしている。そりゃそうだ。渋滞を抜けても先は長い。
僕が免許を持っていたら、とちらりと思う。こんなドライブはまっぴらごめんだろう。
夏。ふたりきりの車内。脇を抜けるトラックには「いつもニコニコ!エンゼルパン」。頭悪い文章だな。
こういうの何て言うんだろう。ミヤコ落ち、だっけ。彼女はユミコだけど。
言ったら最悪の空気になるのはわかっていたから黙っていると、彼女がサングラスを外した。
「ごめんね」彼女はなぜか笑っていた。
「後悔してるんじゃない?わたしと一緒に行くこと」
「そんなこと、ない」とっさに携帯ゲーム機の画面を見ているふりをした。
「ついていくって決めたのは、自分だから」
僕は決めている。不幸とか幸せなんて、決めつけるのはもうやめようと。少なくとも僕は彼女の離婚を不幸と決めつけたくない。泣くより泣かれる方がつらいとわかる年になっていたし。
そのとき、さあっと光がさしこんだ。はるか先、小さくトンネルの出口が僕ら親子を出迎えようとしてる。
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